歯科技工を外部の技工所に委託するときに押さえることは、大きく4つです。歯科技工士法が定める指示書を7項目そろえて出すこと、委託先が届出をした歯科技工所で管理者がいることを確かめること、指示書に載る患者の個人情報を扱わせる委託先として監督すること、国外で作る場合は患者への説明と同意、材料の指示と記録を加えることです。

技工所との取引は、開業のときに決めた形のまま何年も続いていることが少なくありません。料金の改定、デジタル化に伴う受け渡しの変化、再委託や海外での製作など、取引の中身が変わっていても、指示書の様式や取り決めが追いついていないことがあります。

この記事では、条文と厚生労働省の通知をもとに、指示書に書く事項、委託先の確かめ方、契約で決めておく事項、国外で作る場合の扱いを整理します。数字や手順の例は、特に断りのないものは法令の定めではなく、見直しのための例です。


1. 歯科技工の委託に関わる決まりの全体像

歯科技工の委託に関わる主な決まりは、次のとおりです。

決まり中身院で確かめること
歯科技工の定義(歯科技工士法第2条)特定の患者の歯科医療に使う補てつ物・充てん物・矯正装置を作成・修理・加工すること。歯科医師が診療中の患者のために自ら行う行為は除く委託している作業が歯科技工に当たるか
業として行える者(同第17条)歯科医師か歯科技工士でなければ、業として歯科技工を行ってはならない委託先で作業する人の資格
指示書(同第18条)厚生労働省令で定める事項を書いた歯科医師の指示書によらなければ、業として歯科技工を行ってはならない。院内で、治療を担当する歯科医師の直接の指示で行う場合を除く院外に出す技工すべてに指示書が付いているか
指示書の保存(同第19条)病院・診療所・歯科技工所の管理者は、そこで行われた歯科技工の指示書を、終わった日から2年間保存する院内技工の指示書の保存と、委託分の控えの残し方
歯科技工士の業務の範囲(同第20条)歯科技工士は、印象採得・咬合採得・試適・装着など、歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない院内で技工士に任せている作業の範囲
守秘義務(同第20条の2)歯科技工士は、正当な理由がなく業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない契約の秘密保持の条項と合わせて確認
技工所の届出(同第21条)開設後10日以内に、所在地の都道府県知事(保健所を設置する市・特別区は市長・区長)に届け出る。変更・休止・廃止も10日以内委託先が届出済みの歯科技工所か
管理者(同第22条)歯科技工所には、歯科医師か歯科技工士の管理者を置く委託先の管理者の氏名

歯科技工所の定義(第2条第3項)では、病院・診療所の中の場所で、その病院・診療所で診療中の患者のためだけに技工を行う場所は、歯科技工所から除かれます。院内の技工室で自院の患者の分だけを作る場合は、技工所の届出の対象ではありません。院内技工室で他院の分も受ける場合は扱いが変わるため、所在地の保健所に確かめてください。


2. 指示書に書く7項目

指示書に書く事項は、歯科技工士法施行規則第12条が定めています。

項目書き方の例(院で決めておくこと)
1. 患者の氏名同姓同名の取り違えを防ぐため、院内のカルテ番号も併記するかを決める
2. 設計部位、補てつ物の種類、形態、咬合の条件、色調(シェード)など
3. 作成の方法鋳造・CAD/CAM・3Dプリントなど、作り方の指定
4. 使用材料製品名・製造販売業者など、材料を特定できる書き方
5. 発行の年月日発行した日
6. 発行した歯科医師の氏名と、その歯科医師が勤める病院・診療所の所在地複数の歯科医師がいる院では、実際に指示した歯科医師の氏名
7. 技工を行う場所が歯科技工所のときは、その名称と所在地委託先の技工所の名称・所在地。再委託がある場合の書き方も決めておく

見直しのときに抜けやすいのは、使用材料と作成の方法です。保険の補てつ物は材料が点数表の区分で決まるため「いつもの材料」で済ませがちですが、材料の欄が空欄や略称のままだと、後から何を使ったかをたどれません。自費の補てつ物では、患者に説明した材料と指示書の材料が一致しているかも確かめます。

もう1つは設計の伝え方です。口腔内スキャナーのデータで受け渡す場合でも、指示書の項目が変わるわけではありません。データを送る仕組みと、指示書として残る記録がそれぞれどこにあるかを決めておきます。

指示書の控えを院内で残す

第19条の保存義務は、「そこで行われた歯科技工」の指示書が対象です。院外の技工所に委託した分は、指示書の原本を技工所の管理者が保存します。

ただ、患者から「何の材料で作ったのか」と聞かれたときや、補てつ物に不具合が出たときに、院内に記録がなければ答えられません。厚生労働省の「歯科医療における補てつ物等のトレーサビリティに関する指針」(平成23年6月28日付け医政発0628第4号)は、歯科医師が患者の求めに応じて情報を提供できるよう、補てつ物について取得した情報を管理しておくことを求めています。指示書の控え(写し・データ)を、診療録や技工の発注記録と結びつけて残しておくのが実務的です。


3. 委託先の技工所を確かめる

委託先を選ぶとき、また長く取引している委託先を見直すときに確かめる事項の例です。

確かめること根拠・理由確かめ方の例
歯科技工所として届出をしているか歯科技工士法第21条開設届の控えの写し、または名称・所在地・開設年月日の書面での提示を求める
管理者が歯科医師か歯科技工士か同第22条管理者の氏名と資格を確かめる
作業する人が歯科医師か歯科技工士か同第17条担当者の資格を確かめる
歯科技工録を作っているか厚生労働省「歯科技工所における歯科補てつ物等の作成等及び品質管理指針」(平成24年10月2日付け医政発1002第4号)求めたときに提示できるか
再委託(工程の一部をほかの技工所で行うこと)があるか同指針の「複数歯科技工所にわたる作成等」再委託先の名称と、どの工程を任せているか
個人情報の扱い個人情報保護法第25条、個人情報保護委員会・厚生労働省のガイダンス規程、保管の方法、受け渡しの方法、廃棄の方法
国外で作成しているか厚生労働省の通知(第6章)作成場所の国・施設

技工所側に求められている記録

歯科技工所の側には、品質管理指針で次の記録が求められています。院が確かめるときの目安になります。

記録中身
歯科技工録指示書ごとに、受託した年月日、患者の氏名、作成等の部位と設計、作成の方法、使用材料(主材料の品名とロットまたは製造番号)、工程管理の記録、最終点検・検査の完了日、引き渡した日など
保存期間歯科技工録は指示書とともに作成の日から2年間
開示都道府県知事や医療機関等から歯科技工録の開示を求められたとき、速やかに提示できるよう整備しておく
手順書工程管理、点検・検査、苦情処理、自己点検、教育訓練の手順
苦情処理委託した歯科医師からの苦情に対し、歯科技工録を点検して原因を究明し、改善措置を記載した苦情処理記録等を作り、委託した歯科医師に報告する

指針は、管理者は歯科技工の実務経験が5年以上ある者が望ましいとしています。また、工程の一部を別の技工所で行う場合(一次受託者と二次受託者がいる場合)は、分担する工程の範囲や技術的条件、指示の確認の方法を取り決め、歯科技工録か手順書に書くこととしています。


4. 契約で決めておく事項

技工所との取引は、料金表と発注書だけで続いていることがあります。取り決めが口頭のままだと、再製作の費用や納期の遅れでもめたときに拠り所がありません。書面で決めておく事項の例です。

事項決めておくことの例
料金料金表、改定の手順(通知の時期、協議の方法)
納期標準の日数、急ぎの扱いと料金、祝日・長期休暇の扱い
受け渡し模型・印象体・データ・指示書の受け渡しの方法と担当者、紛失時の扱い
再製作適合しない、色が合わないなどで作り直すときの費用の持ち方と、判断の手順
使用材料指示書の材料で作ること、材料を変えるときは事前に歯科医師の了承を得ること
記録の提示歯科技工録や材料の情報(ロット番号など)を求めたときに提示すること
再委託再委託の可否、再委託する場合の事前の報告・承認
個人情報安全管理の措置、目的外の利用の禁止、委託終了後の返却・廃棄、漏えい等が起きたときの連絡
苦情・不具合不具合の連絡先、原因の調査と報告の方法
契約の期間と終了期間、更新、終了の予告期間、終了時の模型・データの扱い

個人情報の委託として見る

指示書には患者の氏名が載り、模型やスキャンデータも患者ごとの情報です。技工所への委託は、個人データの取扱いの委託に当たると考えて扱います。

個人情報保護委員会・厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」は、個人データの取扱いを委託する場合の留意事項として、次の点を挙げています。

  • 個人情報を適切に取り扱っている事業者を委託先として選ぶ
  • 契約に、個人情報の適切な取扱いに関する内容を盛り込む(委託期間中のほか、委託終了後の取扱いも含む)
  • 再委託を予定している場合は、再委託の可否や、事前の報告・承認の手続を契約で定めることが望ましい
  • 委託先が個人情報を適切に取り扱っていることを定期的に確かめる
  • 取扱いに疑問が生じたときは、説明を求め、必要に応じて改善を求める

また、ガイダンスは、委託先で漏えい等が起きて報告の対象になる場合、原則として委託元と委託先の双方が報告の義務を負うとしています。漏えいが起きたときに誰が誰へ連絡するかを、契約の時点で決めておきます。

技工委託費の大きさ

中央社会保険医療協議会の第25回医療経済実態調査(令和7年実施)では、歯科診療所全体の1施設当たりの歯科技工委託費は6,330千円で、医業収益等に対する割合は8.0%です(詳しくは「歯科医院の収支の見方」)。給与費ほどではありませんが、費用の中で小さくない項目です。料金の改定や委託先の変更を考えるときは、件数と金額を委託先ごと、補てつ物の種類ごとに並べてから話し合います。

なお、歯科診療報酬点数表の第12部「歯冠修復及び欠損補綴」の通則は、歯冠修復・欠損補綴の料金には製作技工に要する費用と製作管理に要する費用が含まれ、その割合はおおむね100分の70と100分の30であるとしています。技工料の水準を話し合うときに、この規定が引き合いに出されることがあります。


5. 院内での歯科技工士との連携

歯科技工士法第20条により、歯科技工士は印象採得・咬合採得・試適・装着などを行ってはなりません。型取りや装着は歯科医師が行います。

一方で、歯科技工士が診療の場に立ち会い、色調の確認や口腔内の確認を歯科医師とともに行うことは、仕上がりの確認に役立ちます。診療報酬では、印象採得や補綴時診断の際に歯科医師が歯科技工士と連携した場合の歯科技工士連携加算が設けられており、対面で行う場合と情報通信機器を用いる場合があります。算定には施設基準の届出が要り、対象となる補てつ物や点数は令和8年度改定でも見直されているため、最新の点数表と施設基準で確かめてください。

院内で技工士に任せている作業があるときは、その作業が第20条の範囲の外にあるかを一度確かめておきます。


6. 国外で作成する場合

国外で作成された補てつ物等について、厚生労働省は次の通知を出しています。

通知主な中身
「国外で作成された補てつ物等の取り扱いについて」(平成17年9月8日付け医政歯発第0908001号)国外で作成された補てつ物等を歯科医師が輸入し患者に供する場合、次の点を患者に十分に説明し、理解と同意を得るよう努める。1) 設計、2) 作成方法、3) 使用材料(原材料等)、4) 使用材料の安全性に関する情報、5) 科学的知見に基づく有効性と安全性に関する情報、6) 国内外での使用実績等、7) その他患者に必要な情報
「歯科医療における補てつ物等のトレーサビリティに関する指針について」(平成23年6月28日付け医政発0628第4号)使用する歯科材料を明示して指示し、その要点を診療録等に記録する。委託時・作業時・引渡し時の情報を帳票で一元的に管理する。引渡しの際に委託先から補てつ物管理票と使用材料の帳票を受け取り、指示どおりに作られたかを確かめる

トレーサビリティの指針は、国内の歯科技工所に委託する場合は、指示書で委託先や材料を指定するためトレーサビリティは確保されていると考えられる、としています。国外の場合は、国外で流通する歯科材料に国内法が及ばないことなどから、確保が難しいケースが想定されるとして、次の情報を帳票で管理する仕組みを求めています。

時期記載する人情報
委託するとき歯科医師発行の年月日、歯科医療機関の情報、歯科医師名、補てつ物等の名称、歯科材料(製品・製造販売業者・材料の名称等)、設計と作成の方法、委託先の情報
作業したとき委託先作業した施設の情報(作業責任者名等)、作業の情報(受取日・作業日と内容・最終確認日・発送日等)、含まれる歯科材料の情報(組成・認証番号・ロット番号/製造番号等)
引き渡されたとき歯科医師引渡しを受けた日、引渡しを受けた歯科医師名

国内の技工所に委託していても、その技工所が工程の一部を国外で行っている場合があります。第3章の「国外で作成しているか」は、委託先に直接確かめておきます。

患者の個人データを国外へ渡すとき

国外の委託先に患者の氏名などを渡すときは、個人情報保護法第28条(外国にある第三者への提供の制限)の確認が要ります。ガイダンスは、原則として本人の同意が必要で、日本と同等の水準にあると認められる国として規則で定める国にある場合や、委託先が規則で定める基準に適合する体制を整えている場合には、国内と同様に委託として扱えるとしています。どちらに当たるかを確かめてから、渡す情報の範囲を決めます。


7. 見直しの進め方

技工の委託を見直すときの手順の例です。

順番やること
1委託先の一覧を作る(名称、所在地、管理者、取引している補てつ物の種類、直近1年の件数と金額)
2指示書の様式を施行規則第12条の7項目と照らし、抜けている欄を足す
3直近の指示書を数十枚抜き出し、使用材料と作成の方法の欄が埋まっているかを確かめる
4委託先ごとに、届出・管理者・再委託・国外での作成の有無を書面で確かめる
5契約書(または取引の取り決め)を第4章の事項と照らし、足りないものを追加して取り交わす
6指示書の控えと技工の発注・納品の記録を、患者ごとにたどれる形で残す
7年に1回、委託先の状況(個人情報の扱いを含む)を確かめる時期を決める

手順3の枚数や手順7の頻度は例です。院の規模と委託の件数に合わせて決めてください。


8. つまずきやすい点

つまずき起きること対策
指示書の使用材料が略称や空欄のまま後から何の材料で作ったかをたどれない製品名まで書く欄にし、自費の説明と照らす
データの受け渡しに移ったのに、指示書の扱いを決めていない指示の記録がどこに残っているか分からなくなるデータの送付と指示書の記録の置き場所をそれぞれ決める
委託先が工程の一部を別の技工所や国外で行っていた材料の確認や患者への説明が抜ける再委託と作成場所を契約で報告の対象にする
再製作の費用の持ち方が口頭のまま不具合のたびに交渉になる判断の手順と費用の持ち方を書面で決める
個人情報の取り決めが無い漏えい等が起きたときの連絡と報告が遅れる安全管理、終了後の廃棄、漏えい時の連絡を契約に入れる
院内の技工士に型取りなどを任せている歯科技工士法第20条に触れるおそれ任せている作業の範囲を確かめる

まとめ

  • 院外で業として歯科技工を行うには、歯科医師の指示書が要ります(歯科技工士法第18条)。記載事項は施行規則第12条の7項目で、使用材料と作成の方法が抜けやすい欄です。
  • 委託先は、届出をした歯科技工所で、歯科医師か歯科技工士の管理者がいることを確かめます。技工所には歯科技工録の作成と2年間の保存が求められています。
  • 指示書・模型・データには患者の個人情報が含まれるため、委託先の選定、契約への盛り込み、定期的な確認を行います。
  • 国外で作成する場合は、患者への説明と同意、材料の明示と記録、引渡し時の帳票の確認が加わります。患者の個人データを国外へ渡すときは個人情報保護法第28条も確かめます。
  • 料金・納期・再製作・再委託・記録の提示などの取り決めは、書面にしておきます。

技工委託費を含めた収支全体の見方は「歯科医院の収支の見方」、自費の補てつ物の説明については「自費診療のカウンセリング」で整理しています。


参考資料