歯科医院の収支は、収益を「保険」「自費等」に、費用を「給与費」「歯科材料費」「技工委託費」「減価償却費と賃借料」「その他の経費」に分け、同じ区分で公的な統計と比べると読みやすくなります。試算表の勘定科目のままでは、どの費用が重いのか、収益のどこが伸びていないのかが見えにくいためです。

比べる相手には、中央社会保険医療協議会が実施している「医療経済実態調査(医療機関等調査)」が使えます。歯科診療所の1施設当たりの収益・費用・損益差額が、個人立と医療法人に分けて公表されています。

この記事では、第25回医療経済実態調査(令和7年実施)の数字を読み、自院の収支を同じ形に並べ替える手順、保険と自費の収益の分け方、費用の見方、令和8年度改定の影響の見方を整理します。

1. 医療経済実態調査で見る歯科診療所の収支

第25回医療経済実態調査の報告(令和7年11月)では、歯科診療所の損益は「令和7年3月末までに終了する直近の2事業年(度)」の数値で集計されています。下の表は、そのうち後の事業年(度)(報告の「前年(度)」)の1施設当たりの金額と構成比率です。

項目個人立医療法人全体
施設数213134349
平均ユニット数354
医業収益52,185千円117,366千円77,402千円
うち保険診療収益43,717千円(83.4%)85,067千円(70.2%)59,777千円(75.6%)
うちその他の診療収益(自費診療収益等)7,314千円(13.9%)29,161千円(24.0%)15,667千円(19.8%)
介護収益262千円(0.5%)3,904千円(3.2%)1,679千円(2.1%)
医業・介護費用36,824千円(70.2%)114,589千円(94.5%)66,966千円(84.7%)
給与費15,517千円(29.6%)59,537千円(49.1%)32,656千円(41.3%)
歯科材料費3,458千円(6.6%)8,594千円(7.1%)5,429千円(6.9%)
委託費4,795千円(9.1%)11,414千円(9.4%)7,361千円(9.3%)
うち歯科技工委託費4,365千円(8.3%)9,435千円(7.8%)6,330千円(8.0%)
減価償却費3,072千円(5.9%)5,386千円(4.4%)3,967千円(5.0%)
その他の医業・介護費用9,356千円(17.8%)28,542千円(23.5%)16,742千円(21.2%)
損益差額15,622千円(29.8%)6,680千円(5.5%)12,115千円(15.3%)

構成比率の分母は、新型コロナウイルス感染症関連の補助金を除いた医業収益と介護収益の合計です。医薬品費と賃借料・水道光熱費などの内訳は省いています。

調査では、「その他の診療収益」に自費診療収益等が入り、学校医の手当や健康診断、文書料などは「その他の医業収益」に入ります。医療法人では、構成比率で保険診療収益が70.2%、その他の診療収益が24.0%で、個人立(83.4%、13.9%)より自費等の割合が高くなっています。

2. 数字を読むときの注意

調査の数字を自院と比べる前に、次の点を押さえておきます。

注意する点中身
個人立の給与費に院長の報酬は入っていない調査は、個人立の歯科診療所では開設者の報酬に当たる部分が給与費に含まれていないとしています。個人立の損益差額(29.8%)には院長の報酬に当たる部分が含まれ、さらに建物・設備の改善のための内部資金に充てられることも考えられるとされています
医療法人の給与費には院長の給与が入るこのため、医療法人の損益差額(5.5%)を個人立の損益差額とそのまま比べることはできません
平均値と中央値が離れている全体の損益差額は、平均値12,106.6千円に対して中央値は8,847.9千円です(1施設当たりの損益差額の分布)。平均値は一部の施設の大きな値に引っ張られることがあるため、平均値だけを基準にしません
規模が違う平均ユニット数は個人立3、医療法人5です。金額ではなく構成比率で比べます

個人立の医院が自院と調査を比べるときは、損益差額から院長の生活費や税金、借入金の元金返済が出ていくことを踏まえて、「損益差額が残っているか」ではなく「院長の報酬と返済を差し引いてどれだけ残るか」で見ます。

3. 自院の収支を同じ形に並べ替える

  1. 収益を3つに分ける:保険診療収益(一部負担金と保険者からの支払い)、自費診療の収益、その他(健診・文書料など)に分けます。
  2. 費用を調査の区分にそろえる:給与費、歯科材料費、委託費(うち歯科技工委託費)、減価償却費、その他の経費(うち設備機器賃借料・水道光熱費)に振り分けます。
  3. 構成比率を出す:各項目を収益の合計で割り、調査の構成比率と並べます。
  4. 前年同月と比べる:季節による患者数の増減があるため、前月ではなく前年同月と比べます。
  5. ずれが大きい項目の理由を書く:調査より大きい・小さいこと自体は問題ではありません。理由(自費の割合が高いので材料費が高い、機器を買わずにリースしているので減価償却費が低く賃借料が高い、など)を書き添えます。

医療機器をリースしている医院は、減価償却費が低く、その他の経費の中の賃借料が高くなります。減価償却費と賃借料は足し合わせて見ると、買った医院とリースの医院を同じ目線で比べられます。

4. 保険診療の収益を分解する

保険診療の収益は、次のように分解できます。

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歯科診療報酬点数表は、特定保険医療材料を「材料価格を10円で除して得た点数」とするなど、1点を10円として組み立てられています。請求した点数の合計と、実際に入金された額の差を毎月記録すると、返戻や査定の影響が分かります。

1回あたりの点数を上げることだけを目標にすると、必要のない算定や、記録が足りない算定につながるおそれがあります。点数は、行った診療と診療録の記載に裏付けられている範囲でしか請求できません。

5. 自費の収益を分解する

自費の収益は、件数×1件あたりの金額に分けて見ます。

  • 治療の種類ごと(補綴、矯正、インプラント、ホワイトニングなど)の件数と金額
  • カウンセリングの件数と、そのうち治療に進んだ件数
  • 分割払い・歯科ローンなど、支払いの時期と入金の時期のずれ
  • 保証による再治療の件数と費用

自費の治療は、材料費と技工委託費が保険の治療より大きくなることがあります。自費の収益が増えたときは、同じ月の歯科材料費と技工委託費がどれだけ増えたかも並べて見ます。自費の説明と同意の進め方、保険との区切り方は、自費診療のカウンセリング|説明の中身・同意書・保険との区切り方で整理しています。

6. 費用の見方

調査の定義をもとに、各費用に何が入り、どこを見るかを整理します。

費用調査での中身見るところ
給与費職員の給料、賞与、退職金(引当金繰入額または支払額)、法定福利費。個人立は開設者の報酬を含まない職種ごとの人数と人件費、賞与と法定福利費の月ごとの偏り
歯科材料費歯科用金銀パラジウム合金、充填材料、合着・接着材料などの費消額自費・保険の件数の変化と一緒に見る
委託費(うち歯科技工委託費)歯科技工、医療用廃棄物、医療事務などの委託費。技工物の製作を委託した対価技工物の件数と1件あたりの金額
減価償却費建物、建物附属設備、医療機器などの減価償却費賃借料(リース・レンタル料)と合わせて見る
その他の医業・介護費用福利厚生費、消耗品費、水道光熱費、賃借料、事業税、固定資産税、支払利息など設備機器賃借料、水道光熱費、広告費など、中身を分けて見る

職種別の給料の水準も、同じ報告で確かめられます。報告の「職種別常勤職員1人平均給料年(度)額等」には、歯科診療所の全体で、歯科衛生士の直近の事業年(度)の平均給料年(度)額と賞与の合計が3,264,686円と載っています。採用の条件を考えるときの一つの目安になりますが、地域や勤務時間で大きく変わるため、地域の求人の条件もあわせて確かめます。求人票の書き方は、歯科衛生士の採用|求人票に書くことと応募を増やす工夫で整理しています。

7. ユニットの台数で割って見る

同じ収益でも、ユニットの台数が違えば1台あたりの効率は違います。収益と費用を次の形で出すと、規模の違う月・年どうしを比べやすくなります。

指標出し方
ユニット1台あたりの月の医業収益月の医業収益 ÷ 稼働させているユニットの台数
ユニット1台あたりの延べ患者数月の延べ患者数 ÷ 稼働させているユニットの台数
予約枠の使用率実際に患者を診た予約枠 ÷ 用意した予約枠
当日キャンセル・無断キャンセルの割合当日キャンセル・無断キャンセルの件数 ÷ 予約の件数

調査の平均ユニット数は個人立3、医療法人5です。自院のユニット台数を増やすかどうかを考えるときは、いまの台数で予約枠がどれだけ埋まっているかを先に確かめます。

8. 令和8年度改定の影響を分けて見る

令和8年度の診療報酬改定は令和8年6月に施行されました。厚生労働省の「令和8年度診療報酬改定の概要(歯科)」によると、改定の中身は次のとおりです。

項目中身
診療報酬の改定率+3.09%(令和8年度と令和9年度の2年度平均。令和8年度+2.41%、令和9年度+3.77%)
うち賃上げ分+1.70%(2年度平均)
うち物価対応分+0.76%(2年度平均)
各科の改定率(上記以外の分)医科+0.28%、歯科+0.31%、調剤+0.08%
歯科初診料267点 → 272点
歯科再診料58点 → 59点
歯科外来物価対応料(新設)初診時:令和8年3点、令和9年6点。再診時等:令和8年1点、令和9年2点

歯科外来・在宅ベースアップ評価料の水準の見直しも行われています。6月以降の月次を前年同月と比べるときは、改定で上がった点数の分と、患者数や診療内容が変わった分を分けて見ます。そうしないと、患者数が減っていても改定で収益が保たれているように見え、手を打つのが遅れます。

月次で見る表の例

項目当月前年同月構成比率調査の構成比率差の理由
保険診療収益
自費診療の収益
その他の収益
給与費
歯科材料費
歯科技工委託費
減価償却費+賃借料
その他の経費
損益差額
ユニット1台あたりの医業収益
延べ患者数

チェックリスト

  • 収益を保険・自費・その他に分けて記録している
  • 費用を医療経済実態調査と同じ区分に並べ替えた
  • 個人立の場合、院長の報酬と借入金の返済を差し引いた残りを見ている
  • 減価償却費と賃借料を合わせて見ている
  • 自費の収益と、同じ月の材料費・技工委託費を並べて見ている
  • 請求点数と入金額の差(返戻・査定)を毎月記録している
  • ユニット1台あたりの収益と、予約枠の使用率を出している
  • 令和8年6月以降の増減を、改定の分とそれ以外の分に分けて見ている

まとめ

  • 収益は保険・自費等・その他に、費用は給与費・歯科材料費・技工委託費・減価償却費・その他に分けて見る
  • 第25回医療経済実態調査では、個人立の医業収益52,185千円・損益差額15,622千円(29.8%)、医療法人の医業収益117,366千円・損益差額6,680千円(5.5%)
  • 個人立の損益差額には院長の報酬に当たる部分が含まれるため、医療法人とそのまま比べない
  • 平均値と中央値は離れている。金額ではなく構成比率で比べる
  • 減価償却費と賃借料は合わせて見る。自費の収益は材料費・技工委託費と並べて見る
  • 令和8年6月以降は、改定による増減と、患者数・診療内容による増減を分ける

参考資料