歯科衛生士の採用は、求人票に「仕事の中身」と「働き方」を具体的に書き、法令で決まった明示事項を漏らさないことから始まります。求人サイトを増やしたり、給与の数字だけを上げたりする前に、歯科衛生士が「この医院で働いたらどうなるか」を判断できる情報が求人票にそろっているかを確かめます。

歯科衛生士の多くは歯科診療所で働いています。厚生労働省の「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、令和6年末に就業している歯科衛生士は149,579人で、前回(令和4年)より4,396人(3.0%)増えました。就業場所は「診療所」が90.6%(135,499人)で最も多く、年齢階級別では「25〜29歳」が13.4%(20,043人)で最も多くなっています。応募する人は、複数の歯科診療所の求人を見比べることができます。

この記事では、求人票に書くことと、求人の出し方、応募から採用までの流れを、根拠となる法令・統計とあわせて整理します。

1. 求人票に必ず書くこと

労働者を募集する事業主は、募集に当たって、応募する人に業務の内容や賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(職業安定法第5条の3第1項)。明示する事項は、職業安定法施行規則第4条の2第3項に定められています。

明示する事項(施行規則第4条の2第3項)歯科衛生士の求人で書く内容の例
業務の内容(変更の範囲を含むメインテナンス、歯周治療の補助、保健指導、訪問歯科の有無。将来担当する可能性のある業務の範囲
労働契約の期間期間の定めなし/有期(有期の場合はその期間)
試用期間有無と期間。試用期間中の条件が違う場合はその内容
有期労働契約を更新する場合の基準(更新の上限を含む)有期で募集する場合の更新の基準、更新回数・通算期間の上限
就業の場所(変更の範囲を含む医院の所在地。分院への異動や訪問先がある場合はその範囲
始業・終業の時刻、時間外労働の有無、休憩時間、休日診療時間と勤務時間の違い、片付けの時間、残業の有無、休診日
賃金の額基本給、固定の手当、固定残業代がある場合はその内容
社会保険・労働保険の適用健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険の適用
募集する者の氏名または名称医院名または医療法人名
受動喫煙を防止するための措置屋内禁煙など

「業務の内容」と「就業の場所」の変更の範囲は、令和6年4月1日に施行された改正(令和5年厚生労働省令第89号)で明示が必要になった事項です(施行規則第4条の2第3項第1号・第3号)。訪問歯科や分院への異動の可能性があるなら、求人の段階で書いておきます。

試用期間中の条件が試用期間の後と違う場合は、それぞれの条件を示す必要があります(施行規則第4条の2第6項)。

表示の決まり

求人情報について、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、募集をする者は情報を正確かつ最新の内容に保たなければなりません(職業安定法第5条の4)。充足した求人を掲載したままにしない、実際と違う給与の例を載せない、といった管理が必要です。

性別と年齢についても決まりがあります。

  • 性別: 事業主は、労働者の募集・採用について、性別にかかわりなく均等な機会を与えなければなりません(男女雇用機会均等法第5条)。「女性歓迎」「女性スタッフ募集」のように性別を限定・優先する書き方は避けます
  • 年齢: 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、募集・採用について年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければなりません(労働施策総合推進法第9条)。例外に当たらない限り、「◯歳まで」「20代活躍中」のような書き方で年齢を制限しないようにします

なお、医院の職員を募集する求人広告は、医院への受診を誘引するものではないため、医療広告ガイドラインの対象となる広告ではないとされています(医療広告ガイドライン 第2の5(5))。ただし、医院のホームページの採用ページに診療内容の宣伝を混ぜると、その部分は医療広告の規制を受けます(歯科の医療広告ガイドライン)。

2. 歯科衛生士が判断に使う情報を書く

明示事項を満たしても、それだけでは他院の求人と見分けがつきません。歯科衛生士が働き方を判断するために知りたい情報を、具体的に書きます。

項目書く内容の例書き方の注意
メインテナンスの体制担当制かチーム制か、副担当の有無「担当制」とだけ書かず、休みのときの代わりの決め方まで書く
1人の患者に使える時間メインテナンスの予約枠の長さ記録を書く時間を枠に含めているかも書く
業務の範囲メインテナンス、歯周治療、保健指導、診療補助、訪問歯科、受付や片付けの分担歯科助手との分担を書く
記録の方法業務記録の書式、電子カルテの有無
教育入職後の研修、院内の勉強会、外部研修の費用の扱い実際にある制度だけを書く
休み・勤務休診日、有給休暇の取り方、時短勤務やパートの可否担当制でも有給休暇を取れる仕組みを書く
職場の人数歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、受付の人数と勤務形態

メインテナンスの担当制と記録の考え方はメインテナンスの担当制と記録の残し方で扱っています。求人票に書く内容は、実際の運用と一致していなければなりません。入職後に「求人票と違う」となると、職業安定法の的確表示の問題になるだけでなく、早期の退職にもつながります。

書かないこと

  • 確かめられない表現(「地域No.1」「日本一働きやすい」など)
  • 実際には無い制度(取得実績の無い休暇、支給実績の無い手当)
  • 性別・年齢を限定する表現

3. 求人の出し方

求人を出す先は、それぞれ特徴が違います。1つに頼らず、医院の状況に合わせて組み合わせます。

出す先特徴確かめること
公共職業安定所(ハローワーク)求人の申込みを受けて職業紹介を行う公的機関求人の申込みの際にも、業務の内容や労働条件の明示が必要(職業安定法第5条の3第2項)
求人サイト(募集情報等提供事業)求職者が多くの求人を見比べる掲載の費用と期間、掲載内容を最新に保てるか
自院のホームページの採用ページ医院の考え方や職場の様子を詳しく書ける求人サイトやハローワークの求人と内容をそろえる
歯科衛生士の養成校新卒の歯科衛生士に届く学校ごとの求人票の様式と受付時期
有料職業紹介事業者(紹介会社)条件に合う人を紹介してもらえる。手数料がかかる(条件は事業者ごとに違う)手数料、返戻金制度、紹介実績と早期離職の数

紹介会社を使う前に

有料職業紹介事業者は、紹介で就職した人の数、無期雇用で就職した人のうち6か月以内に離職した人の数、手数料に関する事項、返戻金制度に関する事項などの情報を、インターネットで提供しなければなりません(職業安定法第32条の16第3項、同法施行規則第24条の8第3項)。契約の前に、厚生労働省の「人材サービス総合サイト」などでこれらの情報を確かめ、手数料と返戻金の条件を書面で確認します。

4. 応募から採用まで

応募から面接まで

  1. 応募への返信: 応募を受けたら、面接の日程の候補を早めに返す。返信までの間に、応募者が他院の選考を進めていることもある
  2. 見学の案内: 面接の前後に、診療室やメインテナンスの様子を見てもらう機会をつくる
  3. 面接: 求人票に書いた業務の内容・働き方を、担当する歯科衛生士や歯科医師から直接説明する。応募者の希望(勤務日数、担当したい業務)を聞く
  4. 質問への回答: 担当制、残業、有給休暇の取り方など、よく聞かれる質問への答えをそろえておく

採用を決めるとき

  • 労働条件の明示: 労働契約の締結に際しては、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(労働基準法第15条第1項)。労働基準法施行規則第5条により、就業の場所と従事すべき業務については、変更の範囲を含めて明示します
  • 求人票との違い: 求人票で示した条件を変更する場合は、変更する内容を明示しなければなりません(職業安定法第5条の3第3項、同法施行規則第4条の2第1項・第2項)
  • 記録の保存: 募集で明示した条件の記録は、募集が終わる日(その後に労働契約を結ぶ人については契約を結ぶ日)まで保存します(施行規則第4条の2第7項)
  • 免許の確認: 歯科衛生士の免許証(または登録済証明書)の原本を確認し、写しを保管する

採用後に続けること

採用は定着と一体です。入職後の最初の数か月は、求人票や面接で伝えた内容と実際の働き方が合っているかを、面談で確かめます。業務の内容や担当の患者数が求人票と違ってきた場合は、早めに話し合います。

5. 求人を見直すときの点検表

  • 施行規則第4条の2第3項の明示事項が、すべて書かれている
  • 業務の内容と就業の場所の「変更の範囲」が書かれている
  • 試用期間の有無と、試用期間中の条件が書かれている
  • 性別・年齢を限定・優先する表現が無い
  • 担当制かどうか、1人の患者に使える時間、業務の範囲が書かれている
  • 充足した求人、古い条件の求人が掲載されたままになっていない
  • ハローワーク、求人サイト、自院のホームページの内容がそろっている
  • 紹介会社の手数料・返戻金・紹介実績を書面と公開情報で確かめた
  • 応募への返信と見学の案内を、誰がいつ行うか決まっている

まとめ

  • 就業歯科衛生士は令和6年末で149,579人、9割が診療所で働く。応募する人は複数の医院の求人を見比べられる
  • 求人票には、施行規則第4条の2第3項の明示事項を漏らさず書く。令和6年4月からは業務・就業場所の「変更の範囲」も必要
  • 性別・年齢を限定する書き方はしない(均等法第5条、労働施策総合推進法第9条)
  • 担当制、患者1人の時間、業務の範囲など、歯科衛生士が働き方を判断できる情報を具体的に書く
  • 紹介会社は、手数料・返戻金・早期離職の数などの公開情報を確かめてから使う

参考資料