歯科の個別指導は、「選ばれる理由」「当日に見られるもの」「指導後の措置」の3つが指導大綱に書かれています。指導は保険診療のルールを周知することが主眼とされていますが、結果によっては再指導や監査に進み、返還が生じることもあります。通知が来てから慌てるのではなく、ふだんから診療録とレセプトを同じ物差しで点検しておくことが、いちばん確実な備えです。

保険医療機関と保険医は、健康保険法第73条第1項により、厚生労働大臣の指導を受けなければなりません。指導の具体的な進め方は「指導大綱」(平成7年12月22日保発第117号、最終改正 令和8年3月30日保発第27号)に定められています。この記事では、指導大綱と監査要綱、厚生労働省と地方厚生局が公開している資料にもとづいて、歯科の個別指導を整理します。

1. 指導の種類

指導大綱は、指導の形態を次の3つに分けています。

指導の形態方法主な対象
集団指導一定の場所に集めて講習等で行う新規指定の保険医療機関(概ね1年以内に全件)、診療報酬の改定時、指定の更新時など
集団的個別指導一定の場所に集めて、個別に簡便な面接懇談で行うレセプト1件当たりの平均点数が高い保険医療機関
個別指導一定の場所に集めて、または医院で、個別に面接懇談で行う情報提供があった医院、再指導の医院、高点数が続く医院など

個別指導には、地方厚生(支)局と都道府県が共同で行う「都道府県個別指導」と、厚生労働省も加わる「共同指導」「特定共同指導」があります。厚生労働省の「指導・監査の流れ」の図では、新規に指定を受けた保険医療機関には「新規個別指導」があり、明らかな不正または著しい不当が疑われた場合は監査に移行する場合もあるとされています。

令和6年度の歯科の実施件数

厚生労働省「令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況」(令和8年1月29日公表)による歯科の件数は次のとおりです。

区分歯科の件数
個別指導791件(保険医 1,682人)
新規個別指導1,292件(保険医 1,576人)
集団的個別指導5,029件
監査14件
指定取消・指定取消相当14件(取消6件、取消相当8件)

医科・歯科・薬局を合わせた返還金額は約48億5千万円で、そのうち指導による返還分は約17億3千万円でした。指導の段階でも返還は生じます。同じ資料は、指定取消(取消相当を含む)の端緒の大半(20件)が、保険者、医療機関の従事者、医療費通知を見た被保険者などからの情報提供だったとしています。

2. 個別指導の選ばれ方

高点数による選定

厚生労働省の「集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について」によると、集団的個別指導の対象は次の条件で選ばれます。歯科診療所は、歯科として1つの類型区分で比べられます。

  • レセプト1件当たりの平均点数が、都道府県の平均点数の1.2倍を超える(歯科病院・歯科診療所の場合)
  • 前年度と前々年度に集団的個別指導または個別指導を受けた医院を除き、類型区分ごとの総数の上位から概ね8%の範囲

集団的個別指導を受けた医院が、翌年度の実績でもなお高点数(集団的個別指導を受けたグループの上位から概ね半数以上)に当たる場合は、個別指導の対象になります。個別指導は、類型区分ごとに全保険医療機関の4%程度を実施するとされています。

都道府県ごとの平均点数は地方厚生局が毎年公表しています。たとえば近畿厚生局の「令和8年度 府県内の保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表」では、歯科のレセプト1件当たりの平均点数は大阪府が1,436点、兵庫県が1,350点です。自院の平均点数を同じ方法(レセプトの総点数÷総件数。社保・国保の一般分と後期高齢者分)で計算し、所在地の平均の1.2倍と比べておくと、自院の位置が分かります。

高点数以外の選定

指導大綱は、次のような医院を原則として全件都道府県個別指導の対象としています。

  1. 支払基金等、保険者、被保険者等から診療内容または診療報酬の請求に関する情報提供があり、個別指導が必要と認められた医院
  2. 個別指導の結果が「再指導」だった医院、または「経過観察」で改善が認められない医院
  3. 監査の結果、戒告または注意を受けた医院
  4. 集団的個別指導で、対象となった大部分のレセプトに適正を欠くものが認められた医院
  5. 集団的個別指導の翌年度もなお高点数に当たる医院
  6. 正当な理由なく集団的個別指導を拒否した医院
  7. その他、特に個別指導が必要と認められる医院

平均点数が高くなくても、情報提供があれば個別指導の対象になります。患者からの問い合わせや医療費通知の内容と、実際の診療が合っているかどうかは、日々の記録で説明できるようにしておく必要があります。

3. 通知から当日までの流れ

通知に書かれること

指導の対象が決まると、地方厚生(支)局からあらかじめ文書で通知が届きます。指導大綱によると、通知には次の事項が書かれます。

  • 個別指導の根拠規定と目的
  • 指導の日時(土曜日・休日を除く)と場所
  • 出席者
  • 準備すべき書類等

出席者は、開設者(またはこれに代わる者)と管理者が原則で、必要に応じて保険医、診療報酬請求事務の担当者などの出席も求められます。事前に提出する書類がある場合もあります。関東信越厚生局は、個別指導・新規個別指導の通知を受けた医院に「保険医療機関の現況及び連絡票(歯科診療所)」を作成し、通知に書かれた日までに事務所へ提出するよう案内しています。様式や締切は厚生局ごとに違うため、通知と管轄の事務所の案内に従います。

当日の進め方

指導大綱では、個別指導は原則として指導月以前の連続した2か月分のレセプトにもとづき、関係書類を閲覧しながら面接懇談方式で行うとされています。都道府県の歯科医師会などの学識経験者が立ち会うことがあります(健康保険法第73条第2項)。個別指導の終了時には、指導担当者から口頭で結果の説明があります。

準備のチェックリスト

  • 通知に書かれた「準備すべき書類」と「出席者」を確認した
  • 事前提出書類(現況及び連絡票など)を期限までに提出した
  • 対象月の診療録とレセプトを突き合わせ、傷病名・部位・点数・開始日が一致しているか確かめた
  • 医学管理料などで、算定要件の「診療録への記載」「文書の写しの添付」がそろっているか確かめた
  • 歯科衛生士の業務記録、歯科技工指示書がそろっているか確かめた
  • 届け出ている施設基準の要件(研修の修了、人員、設備)を満たす記録を用意した
  • 届出事項(保険医の異動・勤務形態、診療日・診療時間など)に変更漏れが無いか確かめた
  • 一部負担金の徴収、保険外診療との区分の記録を用意した

4. 歯科で指摘が多い事項

厚生労働省は、特定共同指導・共同指導での主な指摘事項を毎年公表しています。「令和7年度 特定共同指導・共同指導(歯科)における主な指摘事項」から、歯科診療所に関係の深いものを抜き出すと次のとおりです。

分野指摘の例
診療録診療の都度、遅滞なく記載していない。部位、傷病名、主訴、口腔内所見などの記載がない。診断根拠のない、いわゆるレセプト病名がある。修正液による訂正や独自の略称がある
歯科技工指示書設計、作成の方法、使用材料、発行年月日などの記載に不備がある
歯科衛生士の業務記録歯科衛生士が行った業務の記録を作成していない
初診料欠損補綴を前提とした抜歯後で診療が継続しているときに初診料を算定している
歯科疾患管理料1回目の管理計画で必要な情報を診療録に記載していない。歯周病の患者で、歯周病検査の結果を踏まえた管理計画を作成していない
歯科衛生実地指導料歯科衛生士への指示内容の要点を記載していない。情報提供文書を作成していない、写しを添付していない。実地指導を15分以上実施していない
歯周病検査ポケット測定・動揺度の結果を記載していない。精密検査でプラークチャートによる付着状況を実施していない
施設基準届出を行っていない項目を算定している。常勤の歯科技工士を配置せずに歯科技工加算を算定している
請求診療録とレセプトが一致していない。届出事項の変更が認められた
保険外診療保険診療と保険外診療の区別を図っていない

多くは「行ったことを診療録に残していない」という指摘です。算定要件に「診療録に記載する」「写しを添付する」と書かれている項目は、実施していても記録が無ければ算定の根拠になりません。歯科衛生士の業務記録や、自費診療との区分の記録も、医院全体の運用として整えておく必要があります。

5. 指導後の措置

個別指導の結果

指導大綱は、個別指導後の措置を次の4つに分けています。

措置内容その後
概ね妥当診療内容・請求が概ね妥当適切
経過観察適正を欠く部分はあるが軽微で、理解が得られ、改善が期待できる改善が認められなければ再指導
再指導適正を欠く部分があり、再度指導しなければ改善状況が判断できない再度の個別指導。不正・不当が疑われれば患者調査
要監査監査要綱の監査要件に当たる後日速やかに監査

結果と措置は文書で通知され、指摘事項については改善報告書の提出を求められます。指導中に明らかな不正または著しい不当が疑われる場合は、指導を中止して直ちに監査を行うことができるとされています。正当な理由なく個別指導を拒否した場合も監査の対象です。

監査後の措置

監査要綱による行政上の措置は、保険医療機関の指定の取消(健康保険法第80条)、保険医の登録の取消(同法第81条)、戒告、注意の4つです。故意の不正・不当や、重大な過失による不正・不当の繰り返しは取消処分の対象になります。取消処分を受けると、原則として5年間は再指定・再登録が行われません(「保険診療の理解のために【歯科】令和8年度」)。

経済上の措置として、不正または不当が認められた事項の返還期間は原則5年間です。偽りその他不正の行為によって支払いを受けた場合は、返還額に100分の40を掛けた額を加えて支払わせることができます(健康保険法第58条第3項)。患者が支払った一部負担金に過払いがあれば、患者への返還も指導されます。

6. ふだんからの備え

  1. 確認事項リストで点検する: 厚生労働省の「保険診療確認事項リスト(歯科)」と「保険診療の理解のために【歯科】(令和8年度版)」で、自院の診療録とレセプトを点検します
  2. 平均点数を把握する: 地方厚生局が公表する都道府県の平均点数と、自院のレセプト1件当たりの平均点数を毎年比べます
  3. 記録の型をそろえる: 算定要件で記載が求められる事項を、診療録の定型文やチェック欄にして記載漏れを防ぎます
  4. 届出事項の変更をすぐ出す: 保険医の異動、勤務形態、診療日・診療時間の変更は、変更のたびに届け出ます
  5. 記録を保存する: 診療録は完結の日から5年間、療養の給付の担当に関する帳簿・書類その他の記録は完結の日から3年間の保存が必要です(療養担当規則第9条)

新規に開業した医院には、指定から概ね1年以内の集団指導と、新規個別指導があります。開業の準備の段階から記録の型を決めておくと、最初の指導で慌てずに済みます(歯科医院の開業の流れ)。医院を引き継ぐ場合は、前の開設者の指導の結果と改善報告を書面で確かめておきます(歯科医院の承継)。

まとめ

  • 個別指導の根拠は健康保険法第73条、手続きは指導大綱(最終改正 令和8年3月30日)に定められている
  • 選ばれる理由は、情報提供、再指導・経過観察で改善が無い、集団的個別指導の翌年度も高点数など。高点数の目安は都道府県平均の1.2倍・上位概ね8%
  • 当日は原則として連続2か月分のレセプトと診療録で面接懇談。結果は概ね妥当・経過観察・再指導・要監査の4つ
  • 歯科の指摘は「診療録に記載していない」「文書を作成・添付していない」が多い。記録の型をそろえることが最大の備え
  • 監査で不正・不当が認められれば、原則5年間分の返還と、取消・戒告・注意の措置がある

参考資料