歯科医院の開業手続きは、「保健所(都道府県など)への届出」と「地方厚生局への保険医療機関の指定申請」の2本の線で進みます。個人の歯科医師が開業する場合、診療所の開設は許可ではなく届出で、開設後10日以内に届け出ます(医療法第8条)。一方、保険診療ができるのは地方厚生局から保険医療機関の指定を受けた日からで、指定日は原則として毎月1日です。

新規の開業では、指定を過去にさかのぼらせることはできません。 開設日、開設届、指定申請の締切、指定日の順番を最初に組み立てておかないと、医院は開いているのに保険診療ができない期間が生まれます。

この記事では、医療法、医療法施行規則、健康保険法の条文と、地方厚生局・国税庁・厚生労働省の案内にもとづいて、開業の手続きを順番に整理します。様式や締切は自治体と厚生局の事務所ごとに違うため、個別の日程は必ずそれぞれの窓口で確かめてください。

1. 最初に決めること:誰が開設者になるか

開設者手続き根拠
臨床研修等修了歯科医師(個人)開設後10日以内に届出医療法第8条
医療法人など、臨床研修等修了歯科医師でない者開設前に許可医療法第7条第1項

届出先・許可権者は、診療所の所在地の都道府県知事です。所在地が保健所を設置する市や特別区の区域にある場合は、その市長・区長になります(医療法第7条第1項)。実際の窓口は保健所であることが多いため、所在地の保健所に確認します。

「臨床研修等修了歯科医師」は、歯科医師法第16条の4第1項の登録(臨床研修の修了の登録)を受けた歯科医師です。診療所の管理者も、臨床研修等修了歯科医師でなければなりません(医療法第10条第1項)。個人で開業する場合は、開設者と管理者を兼ねるのが一般的です。

開業の時点で医療法人をつくるか、個人で開業してから法人化するかは、資金や税の見通しで決まります。法人化した場合は開設者が変わるため、診療所の廃止と開設、保険医療機関の指定の取り直しが必要になります(第6章参照)。

2. 開業までの手続きの全体像

順番手続き提出先期限・時期根拠
1構造設備などの事前相談保健所設計の段階自治体の運用
2診療所開設届都道府県(保健所)開設後10日以内医療法第8条
3診療用エックス線装置備付届都道府県(保健所)備えた日から10日以内医療法第15条第3項、同法施行規則第24条の2
4保険医療機関の指定申請地方厚生局の事務所事務所ごとの毎月の締切健康保険法第65条
5施設基準の届出地方厚生局の事務所算定を始めたい月に合わせる施設基準の届出の通知
6医療機能情報の新規報告都道府県(G-MIS)開設後速やかに医療法第6条の3
7個人事業の開業届税務署事業開始の日から1か月以内所得税法第229条
8青色申告承認申請税務署1月16日以降の開業は業務開始の日から2か月以内国税庁の案内
9労働保険の保険関係成立届労働基準監督署成立した日の翌日から10日以内厚生労働省の案内
10雇用保険適用事業所設置届ハローワーク設置の日の翌日から10日以内厚生労働省の案内
11健康保険・厚生年金の新規適用年金事務所適用事業所になったとき健康保険法第3条第3項

以下、順に見ていきます。

3. 保健所への届出:開設届とエックス線装置の届出

診療所開設届

個人の歯科医師が開設した場合、開設後10日以内に届け出ます(医療法第8条)。届け出る事項は医療法施行規則第4条に定められており、開設者の住所・氏名とあわせて、臨床研修修了登録証を提示するか写しを添付します。

開設届は「開設後」の届出ですが、構造設備が基準を満たしていないと開設後に直すことになります。診療室や消毒の設備、エックス線診療室の防護などは、設計の段階で保健所に図面を持って相談しておくと手戻りを防げます。

診療用エックス線装置備付届

歯科医院のほとんどはエックス線装置を備えます。診療所の管理者は、診療の用に供するエックス線装置を備えたときに届け出る義務があり(医療法第15条第3項)、医療法施行規則第24条の2により、備えた日から10日以内に届出書を出します。記載事項は次のとおりです。

  • 診療所の名称と所在地
  • エックス線装置の製作者名、型式、台数
  • エックス線高電圧発生装置の定格出力
  • エックス線装置とエックス線診療室の障害防止の構造設備と予防措置の概要
  • エックス線診療に従事する歯科医師などの氏名と経歴

CTを後から導入したときも、同じく届出が必要です。

4. 地方厚生局への保険医療機関の指定申請

指定日は原則として毎月1日

保険医療機関の指定は、開設者の申請により行われます(健康保険法第65条第1項)。地方厚生局の案内では、地方社会保険医療協議会の部会が月1回開かれることを踏まえ、指定日は原則として毎月1日とされています。申請者から1日以外の日の申出があれば、部会の開催の翌月のいずれかの日を指定日にすることもできます。申請の締切は、取り扱う件数に応じて厚生局の事務所ごとに定められています。

関東信越厚生局の案内では、申請の前に保健所で診療所の開設の届書などを取得しておく必要があり、主な添付書類として次のものが挙げられています。

  • 開設の許可証または届書の写し
  • 保険医の氏名と登録番号を記載した書類
  • 診療時間表
  • 社会保険・労働保険の加入状況の確認票
  • オンライン資格確認の導入計画書(または導入の猶予の届出書)

指定の有効期間は6年です。

新規の開業では「遡及指定」はできない

指定日を過去にさかのぼらせる遡及指定が認められるのは、東北厚生局の案内によると次の4つの場合で、いずれも患者が引き続き診療を受けていることが条件です。

  1. 開設者が変更になり、前の開設者の変更と同時に引き続いて開設された場合
  2. 開設者が個人から法人に、または法人から個人に変わった場合
  3. 病院から診療所に、または診療所から病院に組織変更した場合
  4. 至近の距離に移転し、同じ日付で新旧の医療機関を開設・廃止した場合

新しく開業する医院はどれにも当たりません。開設日が指定日より前になれば、その間は保険診療ができないため、開設日、開設届の提出日、指定申請の締切、希望する指定日を並べ、保健所と厚生局の事務所に事前に確かめて日程を決めます。

歯科医師の保険医登録

保険医療機関で健康保険の診療に従事する歯科医師は、保険医の登録を受けている必要があります(健康保険法第64条)。勤務医の時代に登録を受けていれば、開業のときに改めて登録を受ける必要はありませんが、登録番号は指定申請の添付書類に記載します。開業と同時に採用する勤務の歯科医師がいる場合は、その歯科医師の登録も確かめます。

5. 施設基準の届出:届け出た月の翌月から算定

歯科の診療報酬には、施設基準を届け出た医療機関だけが算定できる点数があります。とくに影響が大きいのが初診料です。令和8年度改定後の歯科点数表では、歯科初診料は272点ですが、歯科外来診療における院内感染防止対策の施設基準を届け出ていない医療機関は245点になります(区分A000注1)。

施設基準の届出は、各月の末日までに要件審査を終えて受理された場合は翌月1日から、月の最初の開庁日に要件審査を終えて受理された場合はその月の1日から算定できる扱いです(基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いの通知)。開業月から算定したい施設基準は、指定申請と並行して要件をそろえ、届出の時期を厚生局の事務所に確かめておきます。施設基準の一覧と要件は、厚生局が公表している届出の案内で確認できます。

なお、施設基準を届け出たことをホームページで知らせるときは、「国の認定を受けた」のような書き方は誇大広告に当たります。書き方は歯科の医療広告ガイドラインで整理しています。

6. 開業後すぐに出す届出

医療機能情報の新規報告

診療所には、医療機能に関する情報を都道府県知事に報告する義務があります(医療法第6条の3)。厚生労働省の医療機関向けページでは、開設後速やかに新規報告を行い、定期報告は原則として毎年1月1日から3月31日の間で都道府県が定める時期に、基本情報が変わったときは速やかに報告するとされています。報告はG-MIS(医療機関等情報支援システム)で行い、内容は医療情報ネット(ナビイ)で公開されます。診療時間などは、Googleマップやホームページと食い違わないようにします(Googleマップの整え方)。

税務署への届出

国税庁の案内では、個人事業の開業届は事業開始の日から1か月以内に提出します(所得税法第229条)。青色申告の承認申請は、原則としてその年の3月15日までですが、1月16日以降に業務を始めた場合は業務開始の日から2か月以内です。

労働保険と雇用保険

常勤・パートなどの名称や雇用形態にかかわらず、労働者を1人でも雇えば労働保険の適用事業になります。厚生労働省の案内による期限は次のとおりです。

届出期限提出先
保険関係成立届保険関係が成立した日の翌日から10日以内労働基準監督署
概算保険料申告書保険関係が成立した日の翌日から50日以内労働基準監督署など
雇用保険適用事業所設置届設置の日の翌日から10日以内ハローワーク
雇用保険被保険者資格取得届資格取得の事実があった日の翌月10日までハローワーク

健康保険・厚生年金

個人の事業所は、「疾病の治療、助産その他医療の事業」で常時5人以上の従業員を使用する場合、健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります(健康保険法第3条第3項第1号)。5人未満の個人の歯科医院は、任意で適用を受けることもできます。医療法人は、従業員の人数にかかわらず適用事業所です。歯科医師国保など、どの健康保険に加入するかも含め、年金事務所で確かめます。

7. 開業準備の点検表

  • 開設者と管理者が臨床研修等修了歯科医師か(臨床研修修了登録証がそろっているか)
  • 設計の段階で、保健所に構造設備の相談をしたか
  • 開設日、開設届、指定申請の締切、指定日の日程を、保健所と厚生局の事務所で確かめたか
  • エックス線装置の備付届を、備えた日から10日以内に出す段取りになっているか
  • 指定申請の添付書類(保険医の登録番号、診療時間表、社会保険・労働保険の確認票、オンライン資格確認の計画書)がそろっているか
  • 開業月から算定したい施設基準(院内感染防止対策など)の要件と届出の時期を確かめたか
  • 医療機能情報の新規報告を、開設後速やかに出す段取りになっているか
  • 開業届(1か月以内)と青色申告承認申請(2か月以内)を出したか
  • スタッフを雇う日に合わせて、労働保険・雇用保険の届出を準備したか
  • 看板・ホームページ・Googleマップの表現を、医療広告のルールで点検したか

まとめ

  • 個人の歯科医師の開業は、開設後10日以内の届出(医療法第8条)。医療法人などは開設前に許可(同法第7条第1項)
  • エックス線装置も、備えた日から10日以内に届け出る(医療法施行規則第24条の2)
  • 保険医療機関の指定日は原則毎月1日。新規の開業では遡及指定はできないため、開設日と指定日を合わせて日程を組む
  • 施設基準は届出の翌月1日から算定が原則。院内感染防止対策の届出が無いと、歯科初診料は272点ではなく245点
  • 税務(1か月・2か月)、労働保険(10日)、雇用保険(10日)の期限も開業の直後に重なる

参考資料