自費診療のカウンセリングは、保険でできる治療との違いを示したうえで、治療の内容・費用・期間・主なリスクを書面で説明し、患者の同意を得ることが土台です。話し方の工夫や成約率より先に、「その治療は保険と自費のどちらで、どこで区切るのか」「何を説明し、何を書面に残すのか」を院内で決めておきます。

区切りをあいまいにしたまま自費の話を進めると、保険で請求してはいけないものを請求したり、受け取ってはいけない費用を受け取ったりするおそれがあります。厚生労働省が公表している令和7年度の個別指導の主な指摘事項(歯科)には、「保険診療と保険外診療の峻別を図っていない」という項目が挙がっています。

この記事では、保険・保険外併用療養・自費診療の違い、カウンセリングで説明すること、見積書と同意書の中身、美容目的のホワイトニングにかかる特定商取引法、医療費控除を聞かれたときの答え方を、根拠となる法令・通知とあわせて整理します。

1. 保険診療・保険外併用療養・自費診療の違い

まず、カウンセリングで扱う治療がどの区分に当たるかを確かめます。区分によって、患者から受け取れる費用と、事前に必要な手続きが変わります。

区分中身患者から受け取る費用事前の手続き
保険診療健康保険の療養の給付として行う診療一部負担金通常の保険診療の手続き
保険外併用療養(評価療養・選定療養など)保険診療と併用できると国が定めたもの。歯科の選定療養には「歯科の金合金等」「金属床総義歯」「小児う蝕の指導管理」がある一部負担金+保険外の部分の自費負担額あらかじめ内容と費用を説明して同意を得る。院内に掲示し、原則としてウェブサイトにも載せる(療担規則第5条の4)
自費診療(自由診療)公的医療保険が適用されない診療医院が定めた料金(全額)契約として内容・費用を明確にする。広告する場合は医療広告の決まりに従う

「保険診療の理解のために【歯科】」(令和8年度)は、患者から受け取れる費用を次の4つに限っています。

  1. 患者一部負担金
  2. 入院時食事療養費・入院時生活療養費の標準負担額
  3. 保険外併用療養費における自費負担額
  4. 療養の給付と直接関係ないサービス等の実費

これらは原則としてすべての患者から受け取る必要があり、職員や職員の家族など特定の患者に対して減免してはならないとされています。自費の料金とは別に、保険診療の一部負担金を「自費の契約をしたから」と減らすこともできません。

2. 保険と自費をどこで区切るか

保険診療の中でできないこと

療担規則は、保険診療の中で行ってよいことを限っています。

規定中身
療担規則第18条特殊な療法や新しい療法などは、厚生労働大臣の定めるもののほか行ってはならない
療担規則第19条厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を使ってはならない。歯科材料も、厚生労働大臣の定めるもの以外は使ってはならない(同条第2項)

保険外併用療養費の制度は、保険給付との併用を認める範囲を国が定めた仕組みです。「保険診療の理解のために【歯科】」も、この制度はいわゆる「混合診療」を無制限に解禁するものではないとしています。カウンセリングで自費の選択肢を示すときは、その治療を保険の治療の一部として扱うのか、保険とは別の治療として扱うのかを、治療計画と診療録の上で区切ります。

二重請求にならないようにする

「保険診療の理解のために【歯科】」は、不正請求の例として「二重請求」を挙げ、自費診療で行って患者から費用を受け取っているのに、保険でも診療報酬を請求することと説明しています。不正に支払いを受けた場合、保険者は支払った額を返還させるほか、返還させる額に100分の40を掛けた額を支払わせることができます(健康保険法第58条第3項)。

自費に切り替えた治療の部分が、レセプトに残っていないかを確かめる手順を決めておきます。個別指導で確認される点は、歯科の個別指導|選ばれ方・当日の流れ・指導後の措置と準備で整理しています。

区切りを院内でそろえるための決めごと

  • 自費に切り替える治療の範囲(歯の部位、工程)を治療計画に書く
  • 保険で行った工程と自費で行う工程の境目を、診療録に日付とともに残す
  • 自費の契約を受けた日以降、その範囲の保険請求を止める手順を受付と共有する
  • 選定療養として扱うもの(金合金等、金属床総義歯、小児う蝕の指導管理)と、全額自費で扱うものを一覧にしておく

3. 選定療養を使うときの手続き

歯科の選定療養は、保険の基礎的な部分に療養費の支給を受けながら、患者が選んだ部分について追加の費用を自己負担する仕組みです。療担規則第5条の4は、保険医療機関が選定療養などで費用を受け取るときに、次のことを求めています。

求められること根拠
厚生労働大臣の定める基準に従う療担規則第5条の4第1項
あらかじめ患者に内容と費用を説明し、同意を得る同上
療養の内容と費用を、院内の見やすい場所に掲示する同条第2項
療養の内容と費用を、原則としてウェブサイトに掲載する同条第3項

予約に基づく診察のキャンセル料も選定療養の一つとして扱われ、「保険診療の理解のために【歯科】」は、診察日の直前に患者の都合で予約がキャンセルされた場合に限って費用の徴収が認められ、報告が必要なものであると注意を促しています。キャンセル料を取る運用にするなら、この取り扱いを確かめてから決めます。

4. カウンセリングで説明すること

医療法第1条の4第2項は、歯科医師などの医療の担い手が、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めることを求めています。医療広告ガイドラインも、自由診療を紹介するときには、通常必要とされる治療内容、標準的な費用、治療期間と回数、主なリスクや副作用を分かりやすく示すことを求めています。対面のカウンセリングでも、少なくとも同じ項目を説明します。

説明する項目中身
いまの状態と診断検査の結果と、治療が必要な理由
選択肢保険でできる治療を含めて、取りうる治療を並べる。治療をしない場合にどうなるかも伝える
それぞれの治療の内容使う材料、工程、治療期間、通院の回数
費用総額と内訳、追加の費用が出る条件(再製作、追加の処置など)。自費の料金と保険の一部負担金を分けて示す
主なリスク・副作用起こりうる不具合や、治療後に必要な手入れ
支払いと精算支払いの時期と方法、途中で治療をやめた場合の精算の仕方
保証の条件医院が再治療の条件を定めているなら、その期間と対象、対象外になる場合

「保険の治療より長持ちする」「必ずきれいになる」のように、利点だけを言い切る説明はしません。広告の規制がかかるのはホームページやパンフレットですが、対面の説明でも、患者が選ぶための材料をそろえることが目的です。

5. カウンセリングの進め方

  1. 検査と診断を先に終える:自費の話は、診断と保険での治療方針を説明した後にします。
  2. 選択肢を一覧にして見せる:保険の治療と自費の治療を同じ表に並べ、内容・期間・費用・主なリスクを比べられるようにします。
  3. 見積書を渡す:総額・内訳・追加費用の条件を書いた見積書を渡し、その場で決めなくてよいことを伝えます。
  4. 質問を受ける:患者の質問と回答の要点を記録します。
  5. 同意書に署名をもらう:患者が治療を選んだら、同意書に選んだ治療と費用を書き、患者の署名をもらいます。控えを患者に渡します。
  6. 診療録と会計に反映する:自費に切り替えた範囲と日付を診療録に残し、受付・会計で保険請求から外します。
  7. 治療計画を変えるときは説明し直す:途中で治療の内容や費用が変わる場合は、改めて説明し、同意を取り直します。

説明の担当を歯科医師以外(トリートメントコーディネーターなど)が受け持つ場合も、診断と治療方針の説明は歯科医師が行い、担当者が話してよい範囲(費用の案内、スケジュールの調整など)を院内で決めておきます。

6. 見積書と同意書に書くこと

見積書

  • 治療の名称と部位
  • 使う材料と工程
  • 治療期間の目安と通院回数
  • 総額と内訳(自費の料金と、保険の一部負担金を分ける)
  • 追加の費用が出る条件
  • 見積書の有効期限

同意書

  • 説明した選択肢(保険でできる治療を含む)
  • 患者が選んだ治療と費用
  • 主なリスク・副作用
  • 支払いの時期と方法
  • 途中でやめた場合の精算の仕方
  • 保証を設けている場合は、その条件と対象外になる場合
  • 説明した歯科医師の名前、説明日、患者の署名

同意書と見積書は、診療録とともに保管し、治療の途中で内容が変わったときに参照できるようにします。

7. 美容目的のホワイトニングと特定商取引法

美容を目的としたホワイトニングをコースとして契約する場合は、特定商取引法の「特定継続的役務提供」に当たることがあります。

項目中身根拠
対象となる役務美容を目的とした歯牙の漂白のうち、歯牙の漂白剤の塗布による方法特定商取引法施行令 別表第4の二、同法施行規則第91条第5号
対象となる契約期間が1か月を超え、金額が5万円を超える契約特定商取引法第41条第1項、同法施行令第24条・別表第4
書面の交付契約の前に概要書面、契約の後に契約書面を交付する特定商取引法第42条
クーリング・オフ契約書面を受け取った日から8日を経過するまでは、書面または電磁的記録で契約を解除できる特定商取引法第48条
中途解約8日を経過した後も、将来に向かって契約を解除できる。役務の提供開始後の解約で請求できる損害の上限は「5万円または契約残額の20%のいずれか低い額」(提供済みの対価は別)、提供開始前は2万円特定商取引法第49条、同法施行令 別表第4

歯の治療を目的とした処置とは扱いが違うため、ホワイトニングのコースを用意する医院は、契約の期間と金額が要件に当たるかを確かめ、当たる場合は書面とクーリング・オフの案内を用意します。

8. 医療費控除について聞かれたとき

自費の費用が高くなると、患者から医療費控除について聞かれることがあります。国税庁のタックスアンサー(No.1128「医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」、令和8年4月1日現在法令等)は、次のように説明しています。

項目国税庁の説明
基本の考え方病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額が対象
金・ポーセレン歯の治療材料として一般的に使用されているため、これらを使った治療の対価は対象
歯列矯正発育段階にある子どもの不正咬合の矯正のように、必要と認められる場合は対象。容ぼうを美化するための費用は対象外
歯科ローン信販会社が立替払をした金額は、立替払をした年の対象。金利と手数料は対象外
通院費公共交通機関などの交通費は対象。自家用車のガソリン代や駐車場代は対象外

医院が控除の可否を判断することはできないため、「対象になります」と言い切らず、国税庁の案内を示し、領収書(歯科ローンの場合は契約書や信販会社の領収書)を保存するよう伝えるにとどめます。

9. ホームページに料金を載せるとき

カウンセリングの前に、患者はホームページで料金を見ています。自由診療の料金や治療内容をホームページに載せる場合は、医療広告ガイドラインの限定解除の要件(通常必要とされる治療内容、標準的な費用、治療期間と回数、主なリスクや副作用の掲載)を満たす必要があります。「今なら○円」「期間限定で50%オフ」のように費用を強調する表現は、広告してはならない例として挙がっています。

ホームページの書き方は、歯科の医療広告ガイドライン|ホームページの禁止表現と限定解除で整理しています。ホームページの料金と、カウンセリングで渡す見積書の金額がそろっているかも確かめます。

チェックリスト

  • 扱う治療が保険・選定療養・自費のどれに当たるかを一覧にした
  • 職員や家族を含め、一部負担金を減免していない
  • 選定療養の内容と費用を院内に掲示し、ウェブサイトにも載せた
  • 保険でできる治療を含めた選択肢を、同じ表で説明している
  • 見積書に総額・内訳・追加費用の条件が書かれている
  • 同意書に選んだ治療、費用、主なリスク、精算の仕方、患者の署名がある
  • 自費に切り替えた範囲と日付を診療録に残し、保険請求から外している
  • ホワイトニングのコースが特定継続的役務提供に当たるかを確かめた
  • ホームページの料金表示が限定解除の要件を満たし、見積書とそろっている

まとめ

  • 最初に、その治療が保険・保険外併用療養(選定療養など)・自費のどれに当たるかを確かめる
  • 患者から受け取れる費用は4つに限られ、特定の患者への減免はできない
  • 自費で受け取った部分を保険でも請求すると二重請求になる。区切りを治療計画・診療録・会計でそろえる
  • 選定療養は、事前の説明と同意、院内掲示、ウェブサイト掲載が必要(療担規則第5条の4)
  • カウンセリングでは、保険の治療を含む選択肢、内容、費用、期間、主なリスクを書面で説明し、同意書を残す
  • 美容目的のホワイトニングのコースは、1か月超・5万円超なら特定商取引法の対象になる
  • 医療費控除は医院が判断せず、国税庁の案内を示す

参考資料