歯科衛生士は転職の多い職種です。日本歯科衛生士会の調査では、勤務先を変わった経験がある歯科衛生士は全体の76.4%にのぼります。離職の理由は結婚・出産などのライフイベントだけでなく、経営者との人間関係も上位に挙がっています。この記事では、離職理由の内訳と、医院として取り組める定着の工夫を整理します。
1. 離職理由の内訳
日本歯科衛生士会「第9回 歯科衛生士の勤務実態調査報告書」(令和2年3月、全会員が対象、有効回答7,869人)によると、勤務先を変わったことがないと答えた人は22.2%にとどまり、1回以上変わった人を合計すると76.4%になります。
勤務先を変わったことがある人(n=6,011、複数回答)に理由を聞いた結果は次のとおりです。
| 理由 | 割合 |
|---|---|
| 結婚 | 29.3% |
| 経営者との人間関係 | 29.0% |
| 出産・育児 | 28.7% |
| 給与・待遇の面 | 22.3% |
| 仕事内容 | 22.0% |
| 勤務形態・勤務時間 | 19.5% |
| 仕事内容のレベルアップのため | 15.9% |
結婚・出産・育児はライフイベントであり医院側で防げるものではありませんが、経営者との人間関係・給与や待遇・勤務形態は、医院の運営の仕方で変えられる要因です。「仕事内容のレベルアップのため」は前向きな転職理由ですが、院内で成長の機会を用意できれば離職を防げる可能性があります。
同じ調査では、勤務先を変わった主な理由(1つだけ選んだ場合)を全体でみると、「出産・育児」が11.7%、「結婚」が9.9%、「経営者との人間関係」が9.1%の順でした。複数回答では並んでいた項目でも、「最も大きな理由」として選ばれる割合では出産・育児が最も多く、ライフイベントへの対応と、経営者との関係の改善の両方が定着率に関わっていることがわかります。
2. 「経営者との人間関係」への対応
離職理由の2位に「経営者との人間関係」が挙がる背景には、歯科医院特有の事情があります。
- 歯科医療機関の歯科衛生士数は「0人超〜1人」が最も多く(厚生労働省医政局歯科保健課調べ)、歯科衛生士が少人数のため、院長・経営者との関係が勤務環境に直結しやすい
- 日常的な診療補助・申し送りで院長と接する時間が長く、指示の伝え方や評価の仕方が人間関係に影響しやすい
打ち手
- 診療の合間の指示だけでなく、月1回など定期的な面談の時間を設け、業務以外で感じている不満や要望を聞く
- 歯科衛生士の業務範囲や裁量(メインテナンスの進め方、患者への説明の仕方など)を、院長の一存ではなく、話し合って決める
- 複数の歯科衛生士がいる医院では、特定の歯科衛生士だけに負荷が偏っていないかを確認する
3. ライフイベントを前提にした制度
結婚・出産・育児による離職は、辞めることそのものより、辞めた後に戻れる仕組みがないことが定着率を下げています。日本歯科衛生士会の別の調査では、非就業の歯科衛生士のうち40〜49歳で5割以上が再就職の意向を持っており、復職支援の仕組みはブランクのある歯科衛生士の復職|研修の組み方と受け入れの準備で扱っています。
在職中にできる対応としては、次のようなものがあります。
- 産休・育休の取得実績を職場に周知し、取得した職員が気兼ねなく使える雰囲気を作る
- 育児期間中はパート・短時間勤務への切り替えを選べるようにする
- 復職予定の時期がわかっている人には、復職前に最新の院内ルールを伝える機会を設ける
4. 給与・待遇・勤務形態の見直し
給与・待遇の面(22.3%)、勤務形態・勤務時間(19.5%)も上位の離職理由です。
- 歯科衛生士の賃上げに関わる加算として、歯科外来・在宅ベースアップ評価料|届出と賃上げの計画の立て方があります。賃上げの原資を加算でどこまで確保できるかを確認します
- 常勤・パートの待遇差は、パートタイム・有期雇用労働法の均衡待遇・均等待遇の考え方に沿って説明できる形にします(歯科衛生士のパート・短時間勤務|社会保険の加入条件とシフトの組み方)
- 勤務形態の希望(時短、曜日固定など)を聞く機会を定期的に設け、シフトの組み方に反映する
落とし穴
- 人間関係の不満を「辞めてから」知る: 定期的な面談の機会がないと、不満が蓄積してから退職の申し出で初めて知ることになる
- 復職の制度があることを伝えていない: 産休・育休の取得実績があっても、周知していなければ、離職を考えている職員の選択肢に入らない
- パート・非常勤への対応を後回しにする: 歯科衛生士は非常勤の割合が高く、常勤だけを対象にした定着策では効果が限定的になる
まとめ
- 歯科衛生士の76.4%が勤務先を変わった経験を持つ(日本歯科衛生士会調査)
- 離職理由は「結婚」29.3%、「経営者との人間関係」29.0%、「出産・育児」28.7%の順に多い
- 経営者との人間関係は、定期的な面談や業務範囲の話し合いで改善できる余地がある
- 結婚・出産・育児による離職は、復職の仕組みを整えて「戻れる」選択肢を用意する
- 給与・待遇・勤務形態の見直しも、常勤・パートの両方に行う
参考資料
- 公益社団法人日本歯科衛生士会「第9回 歯科衛生士の勤務実態調査報告書」(令和2年3月) https://jdha.or.jp/pdf/aboutdh/r2-dh_hokoku.pdf
- 厚生労働省医政局歯科保健課「歯科衛生士に対する復職支援・離職防止等推進事業」(厚生労働省行政事業レビュー公開プロセス資料) https://www.mhlw.go.jp/jigyo_shiwake/dl/r05_jigyou05a_day1.pdf