歯科衛生士免許の保有者は約30万人いますが、就業しているのは半数に満たない約14万人で、残り約16万人は免許を持ちながら働いていません(厚生労働省「令和2年衛生行政報告例」)。結婚・出産・育児を機に20代後半〜30代で離職し、40代以降に復職する人が多いことがわかっており、ブランクのある歯科衛生士は、採用難が続く歯科医院にとって無視できない採用の対象です。この記事では、受け入れの準備と研修の組み方を整理します。


1. なぜブランク明けの採用を検討する価値があるか

歯科衛生士の需給

歯科衛生士の求人倍率は平成21年度以降増加傾向にあり、令和4年度は22.6倍に達しています(一般社団法人全国歯科衛生士教育協議会「歯科衛生士教育に関する現状調査の結果報告」)。都道府県を対象にした調査では、都市部・非都市部を問わず7割の都道府県が歯科衛生士の不足を認識しており、歯科医療機関の歯科衛生士数は「0人超〜1人」が最も多い状態です(厚生労働省医政局歯科保健課「歯科衛生士に対する復職支援・離職防止等推進事業」)。新卒や現職からの転職だけに頼ると、採用の母数はすぐに頭打ちになります。

復職の意欲は年代によって高い

日本歯科衛生士会の調査(令和2年3月、非就業歯科衛生士を対象、n=1,063)では、40〜44歳・45〜49歳で、再就職の意向がある人(「今すぐにでも」「条件が合えば」の合計)が5割を超えています。一方で、再就職する際の障害として、40代後半以降は「自分のスキル」を挙げる人が最も多くなっています(同会「歯科衛生士の勤務実態調査報告書」平成27年3月)。意欲はあっても、技能面の不安が復職を妨げている構図です。


2. 受け入れ前の確認事項

確認する項目内容
免許の有効性免許証または登録済証明書の原本を確認し、写しを保管する
ブランクの期間と直前の業務内容何年離職していたか、離職前はどの業務(メインテナンス、診療補助、保健指導、訪問歯科など)を担当していたか
本人が不安を感じている業務スケーリング・SRP、印象採得の介助、X線撮影、電子カルテの操作など、具体的に聞く
最新の機器・材料への対応離職中に変わった機器(口腔内スキャナー、CAD/CAM等)や材料を使ったことがあるか
勤務条件の希望子育て・介護と両立する時間帯、曜日の希望の有無

ブランクのある歯科衛生士は、一般の歯科衛生士と同様に免許そのものは有効です。採用面接では、技能面の不安を取り除くための研修を用意していることを具体的に伝えると、応募のハードルが下がります。歯科衛生士の採用|求人票に書くことと応募を増やす工夫も参考にしてください。


3. 研修の組み方(段階を分ける)

  1. 院内オリエンテーション: カルテの書式、滅菌・感染対策の手順(歯科の院内感染防止対策の施設基準も参照)、電子カルテの操作、院内で使う材料・機器の一覧
  2. 基本操作の練習: 模型やマネキンを使ったスケーリング・SRP、印象採得の介助などの再確認。歯科衛生士の技能向上には専用の設備(診療台、マネキン等)と指導役が必要とされており、個人での独習だけに任せない
  3. 見学・補助: 常勤の歯科衛生士の診療に付き、患者への説明の仕方、申し送りの様式を見てから補助に入る
  4. 担当業務を限定して開始: 最初はメインテナンスなど難易度が一定の業務から始め、担当範囲を段階的に広げる
  5. 定期的な振り返り: 1〜3か月後に、本人と管理者で不安が残っている業務を確認し、追加の練習機会を設ける

メインテナンスの担当制に組み込む際の考え方は、メインテナンスの担当制|決め方と歯科衛生士の記録の残し方で扱っています。


4. 公的な復職支援の仕組み

厚生労働省(医政局歯科保健課)は「歯科衛生士に対する復職支援・離職防止等推進事業」として、次の2つを行っています。

  • 歯科衛生士技術修練部門: 公募で選ばれた教育機関等が、就業中または復職を希望する歯科衛生士を対象に、座学(eラーニング)+基礎実習+臨床実習の形式で研修を実施。復職支援に必要な設備(歯科用ユニット、マネキン、模型等)も整備する
  • 歯科衛生士復職支援・離職防止等研修指導者養成研修: 日本歯科衛生士会が実施主体となり、「歯科衛生士復職支援共通ガイドライン」を実践できる研修指導者・臨床実地指導者の育成を行う

技術修練部門を実施する教育機関は年度によって異なり、開催地域が限られる年もあります。最新の実施状況は、日本歯科衛生士会や都道府県歯科衛生士会に確認してください。


落とし穴

  • 採用してすぐ常勤と同じ業務量を任せる: 技能面の不安を抱えたまま患者対応に入ると、本人の負担が大きくなり、早期離職につながりやすい
  • 最新の機器・材料の説明を省く: ブランク中に導入された機器(口腔内スキャナー等)や材料を知らないまま現場に入れると、他のスタッフの負担も増える
  • 研修の記録を残さない: どの業務をいつまでに任せたかを記録しておかないと、本人・管理者双方が進捗を把握しにくい

まとめ

  • 歯科衛生士免許の保有者約30万人のうち、未就業は約16万人(厚生労働省「令和2年衛生行政報告例」)
  • 40〜49歳の非就業歯科衛生士は、5割以上が再就職の意向を持つ一方、「自分のスキル」への不安が復職の障害になっている
  • 受け入れ前に、免許の確認、ブランク前の業務内容、不安な業務を具体的に聞く
  • 研修は、院内オリエンテーション→基本操作の練習→見学・補助→担当業務を限定して開始、の順に段階を分ける
  • 厚生労働省・日本歯科衛生士会が技術修練や指導者養成の仕組みを用意している

参考資料