歯科訪問診療は、通院による歯科治療が難しい患者のもとへ歯科医師が出向いて行う診療です。始める前に押さえることは3つあります。対象は通院が困難な患者に限られること、在宅療養支援歯科診療所でない診療所は開始する月の前月までに注16の届出が要ること、点数は同じ建物で同じ日に診た人数と診療時間で決まることです。

以下は、令和8年度改定後の歯科点数表(C000 歯科訪問診療料)、留意事項の通知、特掲診療料の施設基準通知にもとづく整理です。


1. 対象になる患者

留意事項の通知は、歯科訪問診療料の対象を「在宅等において療養を行っており、疾病、傷病のため通院による歯科治療が困難な患者」としています。あわせて次の条件があります。

  • 通院が容易な人には安易に算定できない
  • 療養している場所から屋外へ移動しない屋内で診療した場合に限る
  • 急な症状に対応できるよう、切削器具を常に携行した場合に算定する
  • 特定の患者の求めに応じるのではなく、保険診療を行う目的で定期・不定期に在宅等へ出向いて診療する場合は、歯科訪問診療として扱わない

「在宅等」には、自宅のほか、介護老人保健施設や特別養護老人ホームなど、歯科を標榜しない医療機関に入院している患者も含まれます。


2. 始める前の届出

在宅療養支援歯科診療所1・2の届出をしていない診療所は、歯科訪問診療を開始する月の前月までに、歯科訪問診療料の注16に規定する基準を満たす旨を届け出ます(留意事項の通知)。基準は、直近1か月に訪問診療と外来で診療した患者のうち、訪問診療の患者の割合が95%未満であることで、届出は別添2の様式21の3の2を使います(特掲診療料の施設基準通知)。

注16の基準を満たさない診療所(在宅療養支援歯科診療所を除く)は、訪問診療料ではなく、初診時は272点、再診時は59点で算定することになります。また、初診料の注1(院内感染防止対策)の届出がない場合は、訪問診療料から10点を減じます。

届出の受理日と算定開始の関係は歯科の施設基準の届出、初診料の注1は歯科の院内感染防止対策の施設基準で扱っています。


3. 点数の区分

歯科訪問診療料は、同じ建物に住む患者を同じ日に何人診たかで区分が決まります。

同じ建物で同じ日に診た人数区分20分以上20分未満
1人のみ歯科訪問診療11,100点―
2人以上3人以下歯科訪問診療2410点287点
4人以上9人以下歯科訪問診療3310点217点
10人以上19人以下歯科訪問診療4160点96点
20人以上歯科訪問診療595点57点

歯科訪問診療4と5は、在宅療養支援歯科診療所等の届出がなく、別に定める施設基準も満たさない診療所では、所定点数の100分の50で算定します。

区分を読むときの注意点は次のとおりです。

  • 同一建物居住者:有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、マンションなどの集合住宅、特別養護老人ホームなどに住む複数の患者を指します。
  • 同一世帯の複数の患者:同じ患家で2人以上3人以下を診た場合は、1人を歯科訪問診療1、ほかの人を歯科訪問診療2で算定します。
  • 緊急の追加:1人を診た際に、同じ建物の別の患者から緊急に求められて診た結果2人になった場合は、どちらも歯科訪問診療1で算定して差し支えありません。緊急に診る必要があった理由を診療録に記載します。
  • 診療時間:診療前の準備、診療後の片付け、患者の移動の時間は含みません。同じ日に同じ患者を複数回診た場合は合計します。

令和8年度改定では、在宅療養支援歯科診療所などが歯科訪問診療1を行った場合の加算の新設などの見直しもありました。加算の点数と要件は点数表で確かめてください。


4. 診療録に残すこと

留意事項の通知は、訪問診療を行ったときに次の事項を診療録に記載するよう求めています。

  1. 訪問診療の計画:その初診期間の第1回目の訪問の際に、病状にもとづく計画を定めて要点を記載する(急に求められて初めて訪問した場合は2回目までに)。計画を変えたときは変更の要点を記載する
  2. 実施時刻:開始時刻と終了時刻
  3. 訪問先名:自宅、施設名など(開始した日と変更があったとき)
  4. 患者の状態等:急変時の対応の要点を含む

令和7年度の共同指導の主な指摘事項にも、第1回目の訪問の際に計画の要点を記載していない例が挙がっています。開始時刻と終了時刻は20分の判定の根拠になるため、訪問の記録の様式に欄を設けておきます。


5. 始めるまでの手順

  1. 対象の患者を把握する:通院している患者のうち、通院が難しくなってきた人や、家族からの相談がある人を洗い出す
  2. 器材をそろえる:切削器具を含む携行用の器材と、感染対策の物品を用意する
  3. 注16の届出を出す:開始する月の前月までに届け出る
  4. 連携先を決める:緊急時の連携先、依頼を受ける施設や地域の相談窓口との連絡方法を決める
  5. 記録の様式を作る:計画、実施時刻、訪問先、患者の状態を記載する欄をつくる
  6. 人員の動きを決める:外来を誰が担い、訪問に誰が同行するかを決める

歯科衛生士が同行する場合は歯科訪問診療補助加算、歯科衛生士が指導を行う場合は訪問歯科衛生指導料の要件もあります。人員の確保は歯科衛生士の採用も参考にしてください。


6. 見落としやすい点

  • 16キロメートルの圏域:医療機関から半径16キロメートルを超える患家への訪問は、絶対的な理由がある場合に限られます。患家の希望だけで超えた訪問は保険診療として算定できません。
  • 交通費:訪問に要した交通費は実費で、患家の負担です。
  • 通院できる患者:通院が容易な患者を訪問で診ても、訪問診療料は算定できません。
  • 口管強との関係:在宅療養支援歯科診療所でない診療所が口腔管理体制強化加算を届け出るには、注16の届出が要件に含まれます。

7. まとめ

歯科訪問診療は、通院が困難な患者の屋内での診療に限られ、切削器具の携行が前提です。在宅療養支援歯科診療所でない診療所は、開始する月の前月までに注16の届出を行います。点数は同じ建物で同じ日に診た人数と20分の診療時間で決まるため、訪問の組み方と記録の様式を先に決めておくと、算定と記録の食い違いを防げます。


参考資料