レセプトの返戻は記載の不備などでレセプトが医療機関に戻されること、査定は審査で請求の点数そのものが増減されることです。返戻は直して出し直せますが、入金が遅れます。査定は点数が確定して減るうえ、窓口で受け取った一部負担金との差額の対応まで生じます。

どちらも、多くは診療録とレセプトの食い違いと算定要件の読み違いから起こります。厚生労働省の資料は、レセプトの点検を請求事務部門だけに任せず、主治医自らが診療録と照合するよう求めています。以下は、「保険診療の理解のために【歯科】」(令和8年度)と保険診療確認事項リストなどにもとづく整理です。


1. 返戻と査定の違い

項目返戻査定
何が起きるかレセプトが医療機関に差し戻される審査で請求点数が増減される
主な原因記載不備、記載漏れなど請求できない内容、要件や回数の不適合など
医院の対応内容を直して請求し直す内容を検討し、認めるか再審査を申し出るかを判断する
入金への影響再請求まで入金が遅れる減点分が入金されない
患者への影響原則なし一部負担金に過徴収が生じれば返金などが必要

「保険診療の理解のために【歯科】」は、審査支払機関が審査を行い、レセプトの内容が明らかに請求できないものである場合などには増減(査定)が、記載不備等がある場合には差し戻し(返戻)が行われることがあると説明しています。


2. 返戻・査定になりやすい場合

指導の場で繰り返し指摘されている事項は、そのまま返戻や査定の原因にもなります。

  • 診療録との不一致:診療内容、部位、傷病名、所定点数、合計点数、開始年月日が診療録とレセプトで一致しない(令和7年度の指導の主な指摘事項)
  • レセプト病名:査定を避ける目的で、実態のない傷病名を記載する(「保険診療の理解のために」は、このような傷病名が記載されていないかを点検の項目に挙げています)
  • 疑い病名・急性病名の放置:長期間そのままになっている
  • 事務部門の独断での追記:歯科医師の診断や同意なく、傷病名の追加や摘要欄の記載を行う(確認事項リスト)
  • 算定要件の不足:管理計画書の写しの添付、主治の医師の文書の添付など、算定に必要な記録がない
  • 施設基準の届出:届出のない加算や、要件を満たさなくなった施設基準の算定

令和8年度改定のように名前や区分が変わった項目は、改定後しばらく誤りが起きやすい時期です。改定の要点は令和8年度の歯科診療報酬改定で整理しています。


3. 提出前の点検の順番

「保険診療の理解のために【歯科】」は、レセプト点検の注意点の例として、傷病名(診療録との一致、架空の傷病名、疑い病名の放置、診療開始日)と、請求内容(診療録との一致、必要記載事項、歯科医師がオーダーしていない医学管理料、処置名・術式)を挙げています。これを院内の手順に置き換えると、次の順番が進めやすくなります。

  1. レセコンで機械的な誤りを拾う:資格情報、記載漏れ、算定回数の上限などをチェック機能で確かめる
  2. 歯科医師が診療録と照合する:傷病名・部位・開始年月日と、実際の診療内容が対応しているかを確かめる
  3. 算定要件の記録を確かめる:管理計画書の写し、文書の添付、診療録への記載が要る項目の記録があるかを確かめる
  4. 回数と間隔を確かめる:月1回、2月に1回などの規定と、前回の算定月を確かめる
  5. 施設基準を確かめる:届け出ている施設基準の加算だけを算定しているかを確かめる
  6. 前月の返戻・査定を振り返る:同じ原因の誤りが残っていないかを確かめる

歯科の略称は、厚生労働省の「歯科の診療録及び診療報酬明細書に使用できる略称について」に定められたものを使います。独自の略称や、使えなくなった略称は指導でも指摘の対象です。


4. 返戻・増減点連絡書が届いた後

保険診療確認事項リスト(歯科)は、審査支払機関からの返戻や増減点連絡書について、内容を十分検討し、以後の診療や保険請求に反映させるなど活用を図ることを求めています。届いた後の対応は次のとおりです。

  • 返戻:原因を直し、診療録と照合したうえで請求し直す
  • 査定を認める場合:診療録の記載を適切に訂正する(確認事項リストは、増減点を認容した場合に診療録の訂正が適切に行われていない例を挙げています)
  • 一部負担金の過徴収:減額査定を認めた結果、患者から受け取った一部負担金が多すぎた場合は、返金などの対応をする
  • 査定に納得できない場合:審査支払機関に再審査を申し出る仕組みがあります。手続きと期限は、請求先の審査支払機関の案内で確かめます

返戻と査定は、原因ごとに件数と点数を月ごとに記録しておくと、院内で繰り返している誤りが見えてきます。


5. 見落としやすい点

  • 査定を避けるための傷病名:実態のない傷病名は、それ自体が指導で問題になります。
  • 事務だけで直す:返戻の修正で傷病名を足すときも、歯科医師の診断が前提です。
  • 帳簿の保存:療養の給付に関する帳簿や書類は、完結の日から3年間の保存が求められています(確認事項リスト)。
  • 指導との関係:返戻や査定の多さは、歯科の個別指導で確認される記録の不備と同じ根から生じることが多いです。

6. まとめ

返戻は記載の不備による差し戻し、査定は請求の増減です。どちらも多くは診療録とレセプトの食い違いと、算定要件の読み違いから起こります。提出前に歯科医師が診療録と照合し、要件の記録・回数・施設基準の順に確かめる手順を決めておくこと、届いた連絡書を原因ごとに記録して次の請求に反映させることが、件数を減らす近道です。自費と保険の区分けに関わる誤りは自費診療のカウンセリングで扱っている説明の流れとあわせて見直してください。


参考資料